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「磯」2017年 油彩 カンヴァス 162.0x390.0cm              撮影:上野則宏

 

VOCA奨励賞を受賞しました

 

山田の作品には海が頻繁に描かれる。しかも、闇の中の海、あるいは海の中の闇。海や川 を見ていると何故か苦しいのだが、どうしても見続けてしまうと言う。出品作にもそのよ うな海へと続く磯の様子が描かれ、それはどこか意味ありげで不穏な空気が漂っている。 山田によれば、これは風景画ではないし、描かれた大小さまざまな人物もいわゆる人間で はない。 賽の河原をイメージソースとし、報われない、果てしない虚しさを念頭に置く一方で、そ の虚しさの中に存在する充足感のようなものを表現しようとする。また、この世とあの世 を隔て、そして繋いでもいる賽の河原を、彼女自身が彷徨い続けているようにも見える。 荒々しい筆致や大胆で勢いのあるストローク、激しい色彩を多用し、短時間で一気に描き 上げる勢いがそのまま画面上に漂い、情熱的にさえ見えるのだが、そこに現れる世界はい たって静謐だ。山田の絵画は、激しさと静けさ、絶望と希望、悲哀と歓喜、死と生、こう した対立する概念の中間領域を彷徨う彼女自身の内面そのものであり、それと向き合う実 践の場でもある。これは彼女の生そのものを体現している。全身で自己と向き合った証と して、むしろその戦いの場として絵画が存在するかのように。山田の絵画は、理屈や概念、 技術といったもの以前の、もっと粗野でもっと荒々しい部分を迷うことなくストレートに 表現し、本来、絵画とはこういうものだったのだ。そんな風に思わせてくれる。 

 

野中祐美子 金沢21世紀美術館